共鳴する痛み
〜浅葱りんをオススメする理由〜
この世界を少し変えることが出来るほどの素晴らしいアーティストと巡り逢ったので、僭越ながらその魅力と販売作品についてご紹介させていただきます。
全紹介文:ルリニコク みみみ
きっかけは些細なことだった。
X(旧Twitter)のフォロワーからリツイートされた画像。文字が、まるでこの世の流れに抗うかのようにぎっしりと羅列させられていた。それはどうやら、小説のようだった。
なんとなく気になり、その画面をタップして内容に目を通してみる。
その瞬間、脳髄に雷がおちて私のなかのピエロは即死した。
細部まで作りこまれた映像描写。まるで電磁波のように直接的に脳内のスクリーンに映しだされた主人公の心に、恒常的な何かを感じた。
それは、痛み。この世で一番鈍くて、煩わしくて、懐かしい痛み。
これまで言語化することができなかったものを、この作家は実現している。そしてこの痛みを感じることで、日常の不安や悩みは些細なものへと退化していく。
それを確信するため、私はすぐにXの投稿にあった著書販売ページへと飛んだ。
商品はすぐに送られてきた。高揚しながら、まるで欲の溜まった牡豚のように梱包を引きちぎる。いったん冷静になって、状況を整えてから一文字一文字を堪能した。
これこそ4D映画だ、と思った。
読むほど正確に見せつけられる映像と鼓動、痛み。まさに五感で感じられる映画そのものだった。なかにはクローネンバーグ監督の作品を彷彿とさせるような人体的シュールリアリスムがあったり、岩井俊二監督の『スワロウテイル』を思わせるような別世界線があったり。物語としても非常に面白い設定が続く。
作品のすべてには、まるで夜の樹海の木の根のように数多くのメタファーが張り巡らされている。これを時間をかけて追い求めることも一興であるが、まずはこの映像と痛みを感じてほしいと私は思う。
この痛みは、状況は違えどきっと誰もが感じたことのあるもの。入りづらいように見えて、誰もが共鳴できるもの。だから私は作者をポップだと思った。日常を生きやすくするために、心の奥からあえて引き出してくる。その原動力には慈愛が満ちていて、真のラブソングだと思った。
浅葱りんは『ホワイト・スペース』でこのように述べている。
「生きていない、死んでいないだけ。日々が続き、日々の続く異常性に驚きを隠せない。そんなやるせ無さに寄り添い、手に取った貴方のお隣で見守りたい。」
苦しむ貴方の「お隣」にいる存在、とも仰っている。だからこそ、私がルリニコクという音楽媒体で届けたいと思っているあなた、「普通」になれなかったあなたへ届くものだと思った。
だから、私は浅葱りんとその作品を強くオススメします。
2023年11月14日 みみみ
浅葱りんによる全16話の短編集。
ジャンルは純文学。
心情と見えている景色を細部まで緻密に描きあげている。
主人公を通して読み手の内面や記憶から「痛み」が滲み出る。そして日常の辛いことが些細にも思えてくるような、不思議な慈愛に満ちた作風。各話のシチュエーションはささいな日常での叙情から架空の世界線の話など多岐にわたる。
2024年1月の新刊
『ベンズジアゼピン』について
新作べンズジアゼピンは前作『ホワイト・スペース』と同様に全16作品からなる短編集。今回は全体的に比較的読みやすい文章が続く。しかし、浅葱りんは前作よりも濃い。濃いというよりも、より心に近いというべきか。それでいて、ホワイトスペースのような生々しい、雹のつぶてのような作品も。
今回のベンズジアゼピンは全体的に「多面的アイデンティティと混乱」がただよっており、日常的な心情の中に幻覚やすぐそこにある別世界が見えていくという展開の内容が多い。非常にシュールで私はハマってしまった。
浅葱りんの表現は緻密で、そのすべてが地に足をつけている。要は響きだけでカッコつけて書いた言い回しというものがない。それは読めばわかることだし、言葉選びというものはそういうこと。自分の引き出しとはそういうもの。経験した、考えたことがあるもの以上の言葉は引き出しには入っていないし、それを辞書を引いて使ったところで地に足はつかずふわふわと飛んでいってしまう。
さてその前提で浅葱りんの文章、表現のオンパレードである。
たとえば
「アランの顔は、奇妙な時間の積もり方をしていた。」(レキソタンより)
「静かな時間だった。鼻を啜る音だけが小屋に響く。泥沼の底の魚のように感覚器官に溶け込む音。感情は蒼白い燐光となり、窓を曇らす。結露のような一滴が、木の椅子に跳ねた。」(ショートロングより)
これだけでも浅葱りんの表現力が伝わるのではないかと思う。このような表現が緻密に重ねられて、一冊の本を形作っている。その引き出しは高層ビル並みにも思え、圧倒されてしまう人も多いのではないだろうか。若干23歳という年齢やキャリア3年という短さも相まって、嫉妬という感情すら飛び越えかねない才能、つまり感性だ。
しかし私は希望しか感じない。
なぜなら、文章という表現には底がないということが見てとれるから。無限の可能性を感じ、自分を高めようというモチベーションに繋がる。今作のエクルトッカ、レキソタンなどは特に表現の宝庫、メガバンクのように思える。
表現に年齢もキャリアもまったく関係ないということは、ある程度以上の実力者なら容易に理解できているはずだと思う。とかく感性。とかく感性。それを磨くうえで、浅葱りんという存在は非常に勉強になるし、その作品を紐解いていく価値は十分に高いと言えるだろう。
浅葱りんプロフィール
アディクションな妄言、妄想をつらつらと無作為に。——瑪瑙色の破片を集めた様な断片的記憶。フォーダイトのようにぬるい夜に溶ける大脳皮質。恒久的な罪と罰。獣にも劣る人間の生存戦略。純文学的なトートロジーを目指した何か。の私、浅葱りん
❤︎まずは収録作品を読んでみてください。❤︎
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