今日も今日とて練習です。
アルバムのメイン曲のひとつである『青と砂漠の子守唄』(通称「子守唄」)がかなりの難易度すぎて、なかなか進められません。
音楽活動を停止していた五年間、もちろんヴァイオリンは弾き続けていました。特にこの期間は無伴奏というジャンルにハマり、ひたすら大好きなバッハのソナタやらシャコンヌやらを弾き倒す日々。
ところで皆さまは、「多声奏法」という楽器のテクニックについてご存じでしょうか?
これはソロで奏でる楽曲において主に使われる技巧で、単純な重音やコード奏法とは異なり、ひとつの楽器の中で異なる声部を奏でることを指します。
わかりやすく言うなら、異なるフレーズと譜割をもつ、ボーカルとベースのメロディを同時にひとつの楽器で奏でるわけです。
下の譜面が通常の重音。声部がわかれているわけではなく、同じ譜割の中でハモリをつけるイメージになります。
そしてこちらが多声奏法の譜面。異なるメロディをふたつの声部が奏でていることがわかるかと思います。
こうやって実際に譜面を見れば、ふたつの違いが少し伝わりやすいかなと思います。
ピアノでは割と中級程度のテクニックとして知られているのですが、弦が4本、使える指も4本しかないヴァイオリンの場合はまた話が違います。
「ワンボウスタッカート」のような頭のおかしい、いわゆる超絶技巧といわれる部類のテクニックなのです。それも、パガニーニのようなパフォーマンス系の大技とはまた違い、音楽の本質的な難しさがあります。
複数の声部のうち、どれをメインで聴かせるか。どうサブメロディを聴かせるか。そんなことをたった4本の指で考えなければなりません。
この技法を好んで取り入れたのがあのバッハで、ピアノやヴァイオリンなどさまざまな楽器の独奏曲(無伴奏曲)を残しています。バッハの曲は難しいとよくいわれますが、大体の場合この多声奏法が難しいという意味だと思われます。
私は以前、速弾きや悪魔の右手テクニックにこだわっていましたので、多声奏法についてはほとんどやってきませんでした。しかし孤独にヴァイオリンを弾き続けていくうえでこれを習得しておけばひとりでハーモニーが楽しめると思い、あえて新しく習得しようと思いました。
多声といえば、難曲で有名なバッハのシャコンヌ。大好きな曲です。ぜんぶ口で歌えるほどだったので、特に苦労もなく好きな弾き方が出来るようになりました。その反面、無伴奏ソナタ1番のフーガはやけに苦労したりと、曲によって多声のテクニックは相性があるものだということもわかりました。
そんなこんなで得た技を活かすべく、今回はふとしたところに無伴奏の基本である多声奏法を取り入れてみたのですが…。
自分の譜面が、他のどれよりも覚えにくかった。
もともと多声奏法というのは聞いているイメージと指の形にかなり違いが出るテクニック。弾きこなすには身体に譜面を染み込ませなければなりません。
それにしても、たった16小節ほどしかない多声部を覚えるだけで、1週間くらいかかりました。かかりすぎです。センスねぇ。
そしてこの多声というテクニックの最大の辛いところは、ヴァイオリンを弾かない方が見てもその難しさがわからないところにあります。
やり損。なんてこった。
それでも私はやり遂げます。完成したアルバムを聴いて、多声部がどこだか是非探してみてください!
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